杉山レンジャーは、元フレンズとの戦いに勝利し、杉山は、なんとなくベアにも勝てるような気がして来たのだった。「よし! 次はベアが標的だ。キ、チ、アカ、世田谷と川崎の二ケ所を廻って、完全せん滅だ。」「茂原は杉山さんが行ってくれるんですね。」「馬鹿、俺は怖いから行かない。それから交通費は自己負担だ!」「……。」
意気揚々と出発した三人は、世田谷の等々力の駅に立っていた。目の前にはうっそうとした森があり、墓場を抜けて大きな古ぼけた鳥居を抜けた所に今にも壊れそうな日本家屋があった。『琶唖(ベア)』と看板がでていた。「世田谷ってこんな感じだっけ?」「ああ、今村さんが来るようになってから、陽が射さなくなって、あっという間にこうなっちゃったんだって。」
その時だった、相原の背中に何かがのっかってきた。「ウッキー、ウッキー」「うわっ、阿部さんだ。渋谷さんバナナ、バナナ。」「チョット待って……。ほらっ、これでも食らえ!」
渋谷はバナナを崖から放り投げた。それを見た阿部は、急いで相原の背中からおりると崖の下のバナナの後を追って、まっ逆さまに落ちて行った。「ウッキーーーーーウ…ッ……キ…ー……。」「ふうっ、危ない所だった。あれは一体なんだったんでしょうか?渋谷さん。」「“子泣き猿爺(エンジ)”だ。あのまま背中で泣き続けられると、重くなって押しつぶされる所だった。それにしても阿部さんまで妖怪になっていようとは……ウワッ!!」
渋谷の目の前に苔むした山北が座っていた。「ヘッヘッヘッ……練習しよ〜かな〜。」
とっさに北原が殴り掛かろうとしたが、渋谷が直ぐに止めた。「北原さん、これは目玉おやじの親戚の“無駄なおやじ”です。相手をしても疲れるだけだから放っておきましょう。練習に来ても見てるだけで絶対に乗らないですから、ホントに無駄にサーキットに来るだけの人なんです。北原さんほら、あそこにも相手をしても疲れるだけの妖怪がいますよ。」「えっ? うわ〜っ、なに? え〜っヒョロヒョロの高橋さんが空を飛んでいる!」
頭の上を真っ白な高橋がブツブツ言いながらフラフラと漂っているのだった。「ゴメ〜ン。今日だっけ? 他の予定入れちゃって行けなくなっちゃた。ゴメ〜ン。」
高橋はそう言いながら、悪びれることなく、なんにもしないで飛んでいる。「“いったんゴメン”だよ。ああ言って約束をドタキャンするんだ。真面目に付合うと大変な目に合ってしまうんだ。」「ベアってマトモな人っているんすかね?」「いたって発狂しちゃうから、結局はいないんじゃないの。」
適格な渋谷の説明に思わず納得してしまう二人だった。
無駄な努力もいやなので渋谷の説明の通りに二人を放っておいて取り敢えず事務所の中に入る事にした。
するとそこには、カートを磨いている男がいた、遠藤だった。「しまった。ちゃんと整備しているマトモな人間がいる。まじな話、カートで勝負したら杉山レンジャーって結構弱いからどうしよう……」「相原さん、大丈夫だよ彼は“まず身男”だ」「ねずみ男じゃなくって?」「そう、まずは見た目から入るカーター“まず身男”だ。速そうに見えることが命なんだ。じゃあ北原さんに任せた。」「えっ?? 俺? 俺がやんの?」
北原は遠藤のカートは見事にカラーリングされている500クラスでNo.1と言えるくらい美しいカートにプレッシャーを受けていた。
実は北原も見た目から入るカーターだったのだ。毎年ホンダのF1チームのカラーリングをコピーし、似てもいないのに“HONDA”だと言い切る、こちらは思い込みの激しいタイプだ。「やばい……。同じタイプの戦いか……。」
にらみ合いがしばらく続いた。そしてしびれをきらしたように北原が動いた。そう、ジリジリと下がりだしたのだ。「おおっ。北原さんの得意技だ! 後ろで走ってる時はオーバーテイクしてどんどん上がって来るくせに、上位グループに上がって『良し!』と思って応援するとジリジリ下がって行くという、伝説の“アップダウン・オーバーテイク”。レースでもないのに見れるとは思わなかった。」
北原がどんどん後ろに下がって行くので、遠藤は思わぬ展開に困ってしまい、つい横に動いてしまった。「あれ? うわ〜っ!! しまった!」
そして、ぬかるみにはまって沈んでしまった。「そうか! カートではどんなに下がってもゴールすることはできるが、横に動いたらコースオフでリタイアしてしまうんだ。普段から負けなれてる北原さんの頭脳的勝利だ。」 |