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どっちでもいいから有名になれよ〜。そうしたらオジサンたちが威張れるから。 |
目の前に最近ツアーに建った新しいテントがあった。真っ黒で入口に見張りが立っていて常に警察の動きに注意している、そんな新人店長の初々さが印象的なジェーブラッドの裏カートショップのテントだった。「あら、善子ちゃんいらっしゃい。」「久美さん。ジュンペイの所どう?」「面白いのよ〜。お店には何にも置いて無くて、女の子の顔写真が入ったカタログを見て注文すると、鍵と地図をくれて、たどって行くとコインロッカーに商品が入ってるの。歌舞伎町方式なんだって。」「変わったことすんのねジュンペイって。」
その会話を聞いていたジュンペイは、あわてて口に指をあて、“シー”と身振りで会話を終わらせようとしたのだが、既に遅く杉山カートのメンバ−がカタログを手に会計の所で列を作っていた。「久美さん、イクちゃんが殺されちゃったんで、ちょっと相談が有るんだけど……」「え〜!! イクちゃん殺されちゃったの? ラッキー! 色々欲しいモノがあって買い物に行きたかったのよ。」「やっぱり? 私もさ、斉藤さんに旨い口実ができたな〜って思ってたの。」「さすがイクちゃん。良い時に殺されてくれたわ〜、善子、これ終わったら銀座行こ〜銀座。晩ご飯おごってあげる。」「やった〜!! じゃあ、久美さんはシロっと。やっぱり犯人はベアの中か〜。」
と、正義の為に仕事をするとやっぱり良い事が有ると言って喜んでいた。 それは収賄に当たるのでは? と聞かれたが「なに言ってるのよ。ワイロってワルモノがもらうもんでしょ? 全然違うジャ〜ン。」と、不思議そうに首を傾げていた。
お昼のお弁当も参加者全員に行き渡り、後は決勝レースを残すだけとなった。
善子は最期の仕事をしようとベアレーシングのテントのある方を見つめていた。道の両端に怪し気な看板と共に、ポン引きと娼婦が行手を阻ばみ、並み大抵の力ではベアまで行き付けないのは確かだった。「めんどくさいな〜もう……。」
しかし、善子の前では、レース界の伏魔殿ベアレーシングの鉄壁の守りも通用しなかった。善子は普通に、『自分の用事にもかかわらず、相手を呼びつける』という行為を何気なく炸裂させ、ベアの全員を呼び出してしまったのだ。「今から、イクちゃん殺害の容疑者としてお話を伺います。呼ばれた人は、なんで殺ったのか供述して下さい。一番犯人ぽかった人が犯人です。逃げ切れるとは思わないでください。」
半日も探偵をやってると推理するのもめんどくさくなるようだった。「じゃあ、最初はマルさん。」「ハイ! 1番、世田谷区から来ました丸塚久和。『襟裳岬』を歌います。キタ〜ノマチデハ〜モ〜オ〜……」「カ〜ン。面白くない。それに森進一ってあんまりにもベタ。」「もうちょっと時間くれよ〜!」「じゃあ、次ぎ玲於奈。」「…………。」「玲於奈!」「え〜っ。……付合わなきゃいけないんですか……? バカみたい……。」「玲於奈!」「え〜と……太陽が黄色かったから殺しました。」「えっ?
すご〜い。なにそれ哲学的!」「カミュの『異邦人』のパクリです。」「………。ハイハイ、どうせ私は学はありませんよ。あんたは賢い、あんたは無罪っと……。コラッ!
ソコのオヤジ二人! ちゃんと白状するんでしょうね!」「ハイッ! 大丈夫です……(山本・伊藤)」
ここまで来てしまったら嘘でもなんでも善子を喜ばせる返事をしなくてはいけない展開にかなりビビッている伊藤と山本だった。「じゃあ、伊藤さんなんで殺したの?」「えっ?……なんで殺したと思います?」「戦前の旧家の呪が現代に蘇り……みたいだとかっこいいけどさ〜」「いや〜善子ちゃんの言う通り。僕とイブちゃん?あれ?
イクちゃん? だっけ? 明治時代に僕の家に来た美貌のお手伝いさんがタクちゃん?イヌちゃんだっけ? のおばあちゃん“定子”だったわけで……。」
と、被害者の名前も覚えていないが、話を合わせ供述を始める伊藤だった。「うわっ! 面白そう! 続きは? ねえ続きは?」 と言われ、急遽善子に合わせようとした伊藤だったが、その場しのぎの適当な話に続きが出てくる訳も無く。「定子の寝込みを襲おうとした当主の伊藤公麿は、集めたドラゴンボールで北斗神拳を修得し……、定子の眠るカリオストロ城に赤い彗星ことシャー専用ザグで忍び込み……」「ハイハイ、伊藤さんは無罪でも死刑っと。これでっと……残ったのは山本さん唯一人。では、本当の話を聞きましょうか? 山本さん。」 |