レースに熱心な杉山カートは常にファクトリーで集合し戦略面やドライビング技術の向上をはかっている意欲的なレーシングチームだ。最終戦の新東京のレースに向けて一番速く正式なレースリザルトを求めてきたのも杉山カートの山田だった。
「すみませ〜ん、今週チームで集まって作戦会議を開くので、正式リザルトを杉山カートまで送ってもらってもよいですか? 送り先は後でメールで送ります。」
「わかりました、いただいたアドレスに送信しておきます。」
「いや〜そんな難しい事しなくっても大丈夫です。添付のボックスの中に入れていただければ自動的にこちらに届きますから。」 と、文明が30年は遅れているといわれている、神奈川県秦野市在住のチームにはあるまじきメール自動配信システムを暗に自慢して来た。そして次の日クロネコの宅急便で杉山カートから届いたのは真っ白な伝書鳩だった。
「……。」
遅れているのは300年の間違いだった。
しかし事務局でどうしても不可解なことが一つあった。それをリザルトと共に同封して送る事にした。
「杉山カート様。いつもご参加有り難うございます。『新東京に向けてのポイント確認と戦略会議』で御使用のリザルトですが。貴社のチームは毎回まったく活躍されていないので、勝とうが負けようが賞典にかかわることは一切ございません。なにも参考になる部分はないと思いますが同封させていただきます。頭を悩ますことなく安心して新東京のレースいご参加いただけるよう、よろしくお願いいたします。――パンサーツアー事務局」
幾橋がまたしても2006年モデルのトニー系のカートを捜して来た、5年も前のカートに妙に固執しているらしいのだ。事務局では熟女ならぬ熟カート好きの変態扱いをしていたのだが、本当のところはカートではなくカートに隠された秘密があるというのだ。]
実はリビアのカダフィが2006年に、政権が倒される危機を感じ自分の財産を隠した時、その在り処を示した"何か"を5つにわけてカートのパイプに隠したという話があるのだ。CNNでは『ありふれたロマンの安売り』と、一笑にふしたが、カダフィの息子がカートレースに夢中だったという事実が公表されると、一部の人間が真剣に捜し始めたらしいのだ。
「イクちゃんさ〜、その"何か"っていうのは分かったの?」
「実はマルさん。既にそれらしきものを4つ発見したんだ。今回のこのカートに最後の一つがあったら大金持ちになれると思う。」
「え〜!! 本当!! 見つけたら教えてよね。」
その後、幾橋から5つ目を発見したという連絡が入った。あわてて幾橋の元に向かうと「今まで集めた銀色のエンジェルの絵の他に送り先を書いたメモがあったんだ。」と言う幾橋の右手には"おもちゃの缶詰"がしっかりと握られていた。
山下ヒロトがツアーに初参戦した。悪口を書くと本気で怒りそうなので、『物凄い才能を彼から感じた』と言うコメントで大人の対応して、編集部はこの件から逃げてしまった……。
今年のチャンピオン争いが面白くなったのは一重に岡澤のせいだと言っても過言ではない。実は岡澤今年優勝するくらい才能を伸ばしツアーの上位2〜3人を除き、普通の350クラス参加者を既に追い抜いてしまっているのだが、失格2回、リタイア1回と参加の半分がポイントに結びつかず、そこそこの成績しか残さなかった為、丸塚のチームや山田のチームだけでなく事務局長の幾橋のチームさえ、もしかしたら最終戦でコンストラクターを狙えるかもという状態なのだ。そんな岡澤だがチームメイトの石井は流石で、失ったポイントよりも獲得したポイントの重要さをこう語ってくれた「1ポイントでも獲ってくれることが重要です。優勝できなかったら岡澤君のせいにすればいいので気が楽です。」とツアーの重鎮らしく見事に岡澤に責任転嫁してくれた。
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