どんな現象も数値化してしまうと言う特技を持つ手塚は、パンサーツアーの攻略法を解析し数値化することに成功したという情報が入って来た。
「まずスタートのタイミングなんですが、実はこれが三三七拍子なんです。最初のレッドランプが灯いたときにチャッチャッチャッと始めれば、必ず最高のタイミングでスタートできます。1コーナーはワルツで入ると、最低の減速で速度を保ったまま2コーナーへ向かえます。そして重要な2コーナーですが、オペラ『魔弾の射手』のタイミングでブレーキングすれば完璧です。
そう、この新東京のサーキットは総べてリズムに変換して攻略すると、簡単に全日本なみのタイムが出せると言うことなのです。」と、手塚は完璧な攻略手段を公開し、この理論を実践してみせてくれると言ってくれた。
そしてTT。皆が期待の目で見つめる中、スタート。しかし見事に1コーナーでコースアウトをしてしまった。その様子観ていた皆は「手塚さんて、音痴なんだ……」と思った。諜報戦略に長けている原口は、ツアーの参加者に数々のミッションをしかけてきたが、余りにも程度が低くて気付かないどころか逆に大変なことになってしまい、困り果てていた。前回の、最終コーナーでスピード違反の一斉取り締まりを行うミッションも、効果を狙って婦警を仕込んだところ、全員を最終コーナーでストップさせたのは良いのだが、コントロールタワーやピットからも続々人が押し寄せ、婦警をナンパしようと大騒ぎになってしまい、原口がその間に25周し、優勝したことに誰も気付かず、レースがやり直しになったり。警笛鳴らせの看板をコースサイドにたてると驚いてスピードが落ちるかとおもいきや、皆「ブッブー」と叫びながら通り過ぎ、なかにはゴッドファーザーのテーマに合わせて「パパパ、パパパパ、パパパパパァ〜」とメロディーを奏でるヤツまで現れ、まったくレースの妨害にはならなかったのだ。
そこで原口は頭のレベルを下げ「ツアーの皆を騙す為に、今回は私が馬鹿になって考えたミッションです。簡単なウソだと馬鹿なツアーの皆は騙せるはずです。」と、全員に話しをしだした。ツアーの皆も寝耳に水の言葉に、「原口さんて、するどいな〜」と思わず感心してしまった。「では、今から私が皆さんを騙します。良いですか? よ〜く聞いてくださいね。」「は〜い。」「今、雨が降ってて、レインタイヤを付けなければマトモに走れません。でも、レースは全員がドライタイヤで出走しなければいけません。解りました〜?そうすれば皆さんが遅くなりますから、私がとっても有利になります。ちゃんと騙されてくださいね。」「は〜い。」
そしてレース本番、原口にすっかり騙された500のメンバーは総べてドライタイヤで出てしまったため。超スローペースのレースになってしまった。そして原口も、自分の言葉に騙されて、ドライタイヤでゆっくりと走っていた。
前戦の優勝者高橋だが、ここではもう誰も警戒する者がいなかった。ボーナスポイントの多さも原因なのだが、実は高橋は既に賞味期限が切れているというのだ。「だって、高橋さんは新車の3レースしかマトモに走れないんでしょ。だったらもう新車効果の時期はすぎているので、終わってるでしょ。」
そう、高橋はどんなシャーシでもその性能を100%いや120%引き出せる天才ドライバーなのだが、天性の怠け者の体質が邪魔をして、ヤレたシャーシでは全くやる気がでないのだ。実はそれだけではない、古いレーシングスーツでもダメなのだ、そして古いヘルメットでさえやる気がおこらないらしい。ウナギのたれはその日に作ったものしか美味しくないし、干物なんかは壁飾りだと思っている。ましてや、ベアなんて、あまりにも老舗すぎてもう全然だめらしいし、相棒の山北はオジサン臭くって、思わず消臭剤をかけてしまうというのだ。
そう、高橋は単なるワガママオヤジだったのだ。天性の才能さえもソノワガママでたった3戦しか使えないというビミョウな才能の持ち主なのである。その高橋が語る唯一のマトモな言葉がある。それが「ビンキューって、古臭くってなんかビミョウだよね。」だ。お互いビミョウ同士だと解りあえるということらしい。できれば仲間には入りたくないのは私だけだろうか?。 |