秦野の良心とさえ言われ、その明晰な頭脳が、神奈川杉山カートでは、ちょっともったいないとまで言われていた渋谷だが、成績が向上するにつれ、さらなる上を目指してその頭脳を悪巧みの為に使い始めたようだ。
「まず最初にスタートシグナルの信号を入手し、これに細工をすることに成功しました。これでスタートは完全に私が支配することができます。ハッハッハッ。世界征服の野望はまずは新東京の勝利からですかね。」と、自信ありげに優勝宣言をした渋谷だった。
そしてスタート。レッドランプが点灯し、そして消えるかと思った瞬間“な〜んちゃって!”という文字が浮かび上がった。全員が不意をつかれて一瞬動きが留まった瞬間。
「ようし、スタートだ。」と、計画通り渋谷がアクセルを踏み込もうとした時、あろうことかサーキットに割れんばかりの拍手が起こった。「ブラボ〜!! 誰がやったんだ?? サイコ〜!!」「えっ? ウケたの??」渋谷が周りを見渡すと、500のメンバーだけでなく、ピットロードから見ているメカやスタッフ、そして350のメンバーまでが、喜び拍手をしているのだ。「この賞賛を受けること無く、スタートするのは実にもったいないし……」そう思った渋谷はカートから立ち上がり、ヘルメットを脱いで、その拍手に応えたのだ。
「アリガトウ、これは私の作品です。本当にアリガトウ!」
「え〜っ?渋谷さんなの〜?すごい演出だねサイコ〜!! ……じゃあね渋谷さん」
と、言うと500のメンバーは渋谷を残してスタートしてしまった。どんな頭脳も、500の人間の性格の悪さには全く歯がたたないようだ。
実は、雨を得意だと言っている男が他にもいる。そう遠藤だ。正確に言うと遠藤は“水と風”が得意だと言っているのだ。「普段から、海上で遊んでいますから、雨が降るような状況で驚くようなことはありません。逆に、その雨がもたらす、水と風の効果を使うことによって、より速く走れるのです。知っていますか?ヨットは風上に向かってでも進んでいけるのですよ。」と、単なる雨のレースが得意な人間とはひと味違うと自信を覗かせた。
スタート直後、少し出遅れた遠藤だったが、バックストレートに入ると直ぐに、大きな帆をあげたのだ。するとカートは滑るように進み、あっという間にトップに浮上した。「どうだ! 私に風を操らさせたら、かなうものなんて居ないんだ。」 そしてスリーボンドコーナーへ物凄いスピードで飛び込んで行った遠藤は、左折することなく、そのまま東の空へ飛んで行ってしまった。あっという間に小さくなったそのシルエットから照れくさそうに『ヨーソロー』と言ってる遠藤の声が聞こえて来た。
チャンピオンレースをリードする冨田は流石に30秒のボーナスは辛いらしく、ここ新東京サーキットでは、ポイントが稼げてボーナスが減らせる7・8位狙いに目標を変えて来た。そこで冨田が考えた戦法というのが「速い人間に付いて行って、何とか7・8位に入れれば……と言った作戦は現実的ではありません。ここは着実に弱いもの虐めをして、9位以下を恐ろしく遅く走らせれば、目標は簡単に達成できます。」と教えてくれた。
そこで冨田は、お局OLの衣装に着替え、参加者を回ることにした。「あ〜ら阿部ちゃん。ピグミーモンキーは税金払わなくって良いんだってね〜、うらやましいわ〜。」 「牧田ちゃ〜ん。パンなんて膨らし粉で大きくして売ってるんでしょ? 空気に価格つけて商売するんだから気持ちがいいわね〜? 」「和田ちゃ〜ん。ダイエットしたんだって? 脳ミソまでダイエットして馬鹿になった気分ってどう?教えて欲しいわ〜。」「手塚ちゃ〜ん。治虫ちゃんは有名だけど、あんたの名前は聞いたことないわね。エロDVDを普通に買えるって幸せ?」と、言う風に、地道などぶ板虐めを敢行し、見事7位をゲットした。
冨田の家にはジャイアンの銅像が祭壇に祭ってあるらしい。 |