いよいよ政権交代か?……と日本の未来が色々と語られる中、パンサーツアーGG500では、ここ数年間で、チャンピオンの山本、そして山形や風戸等、力の有る有望選手をさっさと追放し、世間に先駆けて政権交代選手権となっている今年のグランプリ。
参加者はさながら各政党の党首のようにシャカ力に頑張っているかとおもいきや、「いや〜、また世間より先に行ってしまいましたね〜、やっぱり僕達って流行が先読みできるトレンディーな存在なんだね〜。」と“死語(トレンディー)”が平然と混じってしまう、その最先端感覚で、今日もダラダラとレースに勤しんでいた。
天気予報では曇り、雨の気配が無かったにも関わらず、先に行われた350のタイムトライヤルの時にいきなり雨が降って来た。「うわぁ! 雨か……嫌だね。」と、晴れだったらもつはずのない体力のことなんかお構い無しに、いかにもレースに神経を集中している風を装おう500のメンバーの最大の関心事が“晩ご飯を何処で食べるか”だったことは公然の秘密だった。
雨が降ると妙に元気になる巨漢レーサーの後藤と関根、今回も物凄い意気込みでタイムトライアルに出走していった。後藤は雨だと有利に働くという重量の重さを最大限に利用し、慎重にかつ大胆に攻めた結果トップタイムをマークし、ポールポジションを獲得した。関根は雨でスリッピーになる路面の状態を、神業的な感性で自分のものにし、「キャッホー!!楽しい〜!!」とスピンを連発。見事予選の最大回転数のタイトルを獲得した。
このふたりに共通なのは、独特のレース用語を使うことだ。「後藤さん、今日のサシの感じだとタレだよね?」「いや〜関根さん、僕は肉汁は意外に少なそうなのでサッパリと塩で行こうかとおもっているんだ。」と、普通の人にはとてもレースの会話とは思えないのだ。通訳すると「後藤さん、今日のレインタイヤだと空気圧高めだよね。」「いや〜関根さん、僕は、雨量は少なそうなので、空気圧は低めで大丈夫だと思うんだ。」ということになる。雨だと気分が高揚して、どうしてもこういう会話になってしまうそうだ。ちなみに彼等はレインタイを“霜降り”といい、そのトレッドパターンやタイヤ表面の溶け具合を“サシ”と呼んでいる。
情けないことに、この二人の雨大好き人間に500クラスの面々はまったく歯がたたず、後藤はそのままポールトゥーウインで優勝。関根は、後続集団からのスタートにも関わらず、このレース最大の7人もをオーバーテイク、4位と大健闘した。久保はここ新東京での優勝の為に秘策を持って来た。そう、久保は仕事柄モンスターとは知り合いで、今回のレースを手伝ってもらう約束を取り付けて来た。そのことを久保は「パンサーツアーなので、新しいピカチューとかを連れてきてもオッサンには解らないので、みんなの年齢に合わせたモンスターに協力を頼んだんです。その方がモンスターもみんなと仲良くなれるかと思って。」と、モンスターに優しい一面をみせた。
今回来てもらうンスターは、あのチキチキマシン猛レースに参加していたゼッケンNo.2、ヒュードロクーペの後ろで活躍していたドラゴンだ。そのドラゴンに火を吹いて前の車を破壊したり、空を飛んでコーナリングし、タイヤのグリップを遥かに超えたスピードで旋回しようというものだ。「あの〜久保さん、まだドラゴンさん来ていないようですけれど。」「そうなんだよ、遅いな〜。見かけに寄らず真面目なヤツなんだけど……」その時、サーキットじゅうに大きな重低音の声が響いた「お・そ・く・な・り・ま・し・た・久・保・さ・ん」「お〜、待っていたよ久しぶり……え〜っ!!」 そこに居たドラゴンはすっかり老いぼれて岸辺四郎のように覇気の無いドラゴンだった。彼が活躍して居たのは40年前、若い頃一緒になって悪さをしていた久保は、真っ白になっしまった頭髪を掻きむしり、呆然としていた。
今年初参加となる鴨居は余裕をみせていた。バリバリの地元でのレースということもあり、また現役で新東京を走っているメンバーに対しても、その長いキャリアは自信であったし、まだ負けることなど考えられなかった。「いや〜鴨居さん、えらく落ちついてるじゃ無いですか。勝算でもあるんですか?」「なに言ってるの。なんでも長年ちゃんとやってきてると知らない間に蓄積してるもんだよ。やることはやった。そう思えるからレース前にジタバタすることなんてないんだよ」と、澄んだ瞳で語ってくれた。そう、鴨居は昨日は、各参加ショップに忍び込み、ガソリンの中に角砂糖をいれたり、新品のタイヤに切れ目を入れたりと、やることはやって来ているのである。今さらジタバタすることなんて何も無いのである。 |