影が薄い、本当に薄いとよく言われる山田だが、レーサーとしての資質は非常に高いモノがあり、ツアーでも優勝こそないものの、必ず上位でフィニッシュシ、年間チャンピオン候補の常連でもある。しかし本当に活躍している印象がない。そこで事務局では山田の実力を計るべく、500台のカメラと2000本のマイクを隠し、山田の日常に迫った。
朝ベッドに寝起きの様子を伺うと、ベッドの中に山田の姿は無く、部屋の真ん中当たりで浮いていた。存在感が希薄な為、身体も軽いようだ。朝食後出勤となる。
出勤は車でも電車でもない、スズメに引っ張ってもらうらしい。気配を消しスズメに近づき足に紐をくくりつけると、スズメを巧みにあやつり、会社まで飛んで行く、存在そのものが軽薄は山田にしかできない方法だ。
会社では超エリートとして尊敬されている、なぜならば絶対に失敗しないからだ。やりたく無い仕事やリスクの大きな仕事の場合存在感を消して、一切関わらないばかりか、経営会議に潜り込み、重要な案件になりそうな所にだけ顔をだすので、会社では状況判断にすぐれた知的な社員として知られている。この間違った認識が日産がハイブリッドカーレースに出遅れた原因とも言われている。
このまま行くと経営陣へと出世してゆきそうだが、実は問題もある。山田の私生活が一切見えない為、信用するには不透明な部分が多い人物とされている。ツアーに参加しているものなら、納得できるだろうが、友人が山形や渋谷である、普通はずかしくて紹介できないエロ男と、なにかが一本抜けている天才である。紹介したとたん社会的地位をうしなうばかりか、人間としての資質さえ問われかねない事態におちいるのは明白だからである。山田の友人関係をしらなかった為、なんの疑いも無く、GTRという名車を完成させることができたとも言えるだろう。
この時点で午前10時、事務局として、山田の日常を追っていても面白くないことに気づいてしまった。本人には今日一日密着させて貰うと連絡してあるので、そのまま放置した。その後夜になり山田の地元で呑んでいると。夕方、方、暗がりで幽霊を見た、とか。写真をとったらすこしキモいおじさんがうっすらと映っていたとか、この街は呪われているとかいう話が異常に多いことに気づいてしまった。我々はすぐに山田のしわざと気づいたので、見つけたら必ず石を投げるように、きつく言って来た。
もう一人の神奈川、杉山カートの350カート戦士は山形だ。本年度第1戦となる榛名で堂々の優勝をかざり、絶好調でここ掛川戦を迎えている。政界へ転出を望む声も多いらしい。
ことは2002年ドイツにおいて、かつて違法行為だった売春が合法化されたのである。そのニュースが日本に届くやいなや、日本のエロをこよなく愛する人達から、日本でこの問題を扱うのは山形しかいない。彼が音頭をとってくれれば、桃源郷のような甘美な日本を作ってくれるだろうと、期待を寄せられているのだ。山形自身も『日の丸を赤からピンクへ』を合い言葉に日夜エロ世界の浸透を勤しんでいる。
神奈川杉山カートは「彼がエロに走らなければセナ以上のレーサーになれたかもしれない。しかし彼からエロを抜いたら、きっとそこらへんのヘボレーサー以下の活躍しかできないのも事実だ。」
と、不世出の天才レーサーのエロ病を残念に思っていると語ってくれた。
そんな山形はコンストラクターズを取る為にもチームの結束が大切だと考え、チームプレーを重視した、一歩進んだレ−シングチ−ムを神奈川杉山カートで実現し、ここ掛川に引き連れてきたのだ。「あれ? 山形さんたちを見なかった? もうスタートなんだけど何処にも見当たらないんだ?」「そう言えば、さっきからみないよね〜。しょうがないから失格にして進めちゃおうか?」 と、コース上で協議しているとその時、
「まて〜!まてまてまてまて〜!!カートの正義を守る為、秦野の名前を広める為、私は戦う!!」
「あっ、あんな所に山形さん達が……」
「桃レンジャー、山形参上!」
「桃レンジャー、山田参上!(桃色は俺だろう)」
「桃レンジャー、渋谷参上!(え〜っ俺だろう)」
「三人そろ……、え〜なんで色が被るんだよ〜!!ちょっと自分のカラーを考えて行動してよね!」
「……。」
屋根の上でポーズを決めた三人は、俺が桃色だろう、いいや俺こそが桃色だと、いさかいを始め、とうとうおりて来なかった。神奈川杉山カートが来なかったことで今回も平和が守られ、無事にレースが執り行われた。 |