|
後ろむいてて顔が見えない……あっ、カートをいじってるから石井ちゃんか。 |
350は真面目・不真面目取り揃え、実にバランス良く接戦を展開中だ。TTでもコンマ数秒の中に何人もいる為、少しのミスでも大きく影響するため、少しでも前のグリッドを獲得する為の涙ぐましい努力がそこにはあった。「秋山さん、手紙が届いています。」「え〜?? こんなところへ手紙? 誰から?」ふと、手紙に目を落すと、住所やあて名が全て新聞を切り刻んで貼ってあった。
……ヤバイ!……
あわてて物陰に潜み、手紙を開封するとそこには、『秋山さん、みました。ホテルから一緒に出て来た女性、とっても綺麗でしたね。また、ご連絡を差し上げます。……ミタ夫』
……ヤバイ!! しかしまてよ……身に覚えはちょっとしか無いが、見られているはずは絶対無い、あきらかにこの中の誰かが俺に動揺をさせようとしてやっていることだ。……きっとそうだ……絶対そうだ……そうであって欲しい……神様そうでありますように。
振り返るとそこには、幾橋と石井と風戸がニヤニヤしながら立っていた。……コイツ等か?……コイツ等だったらいいな〜馬鹿だからなんとか騙せる……ようし!!
秋山は小学生の学芸会でのお芝居のセリフのようにぎこちなくだが、周囲に聞こえるように大きな言った。「ナンカ……僕ニ……、ホテルデ見タッテイウ手紙ガ来テイルケド…写真ノ人物ハ、コレハぱんさーつあーニ来テイル人ダー。」「えっ!!」
大合唱が起こったかと思ったら、当り一面シーンと静かになった。周囲にいる男性が青い顔をして秋山の次の一言を待っていた。「眼鏡をかけていないな〜。」「よ〜し!!」
いたるところでガッツポーズが起こり、ホットしたのか、その人達は、笑顔でその場で座わり続きを楽しそうに待っていた。「今日のレースにでている人物だな〜。」「キャッホー!!」
大きな歓声があがりメカニックやカート屋のオヤジ達が座った。「350クラスの人だー。」「やったー!! ……あ〜ヤバかった〜」
500の面々が座った。みんな口々に「いや〜バレなくて良かった〜」と涙を流しながら喜んでいたので、奥さんを連れて来ていた数人がその場で土下座をさせられていた。
秋山が周囲のざわめきが治まるのを待って言った。「え〜みなさん、良いでしょうか? それでは発表します。次は髪の毛が薄く無い人です!」「お〜っし! やった! ここで抜けたぜ。」
大きなガッツポーズで山田が座った。ドラムロールが始まった。「では、発表します。鬚を生やしてません。」「よし!! ホラ見ろ、見つかったのは俺じゃないって言ったろうが。」と、風戸が彼女に向かい笑顔で座ろうとしたところ「見つかったのが〜か……ほ〜、お前ヤッてんじゃね〜か。」と、彼女にケリを入れられていた。
ファンファーレが鳴った。秋山は「いよいよ決勝です。残ったのはイクチャンと石井チャンとエロ侯爵の山形さんです。さて、いよいよ発表の瞬間ですが、いかがでしょうか?」「なに言ってるの、秋山さんも残ってるんじゃん。」「え〜?? 俺も?」「もちろんそうだよ、残った条件にぴったしじゃん。」
秋山の顔がまた真っ青になった。その時ドラムロールが始まった。「えっ、え〜と」秋山に最後の条件を冷静に考える余裕が無くなっていた。“しっかりしろ〜”とヤジが飛ぶ「さっ最後の条件はですね……そっ、それは“男前”です。そして優勝は……さんです。」「ウワァ〜!!」
大歓声に秋山の声の最後が打ち消された。幾橋と石井ががっちり握手をしていた。興奮した観衆が「秋山コール」を繰り返した。結局、秋山が誰の名前を発表したのかは不明だったが、最終選考で勝ったのは誰もが秋山だと確信していた。秋山は泣いていた。嬉しかったのか、悲しかったのか………その後、TTでは、『この浮気男!』の声援の中、秋山がポールポジションを獲得した。 |