350の優勝争いも熾烈だった。その中でひときわ目立った速さを見せたのが丸塚だった。レース終了後、自分の順位を確認することなくサッサと帰ってしまったのだ。丸塚のサーキット滞在時間最短記録はサザエさんを、ライブで観たいという情熱がさせる技なのだ。
秋山はイケメンレーサーだが、ここにきてある疑惑が浮上してきた。今はやりの“イケメンなのに馬鹿”ではないかというのだ。そのことをチームメイトの山下に聞いてきた。「秋山さんて基本的になにを話し手も爽やかに笑ってるだけなんですよ。このあいだもアカデミー賞の話になって、『アバターはとれるでしょうかね〜?』って聞いたら『季節のものだから、僕は大好きだよ。』って言ったんです。で、みんな『あれ?』ってなって、コイツ馬鹿なんじゃね〜の? っていう話になったんです。」と教えてくれた。
そこで事務局は放っておけない事態だと緊急に九九のテストを敢行することになった。すべての段の答えを制限時間五時間で書いてもらうというシンプルなものだ。それを秋山だけではなく、500の爽やかな男代表で和田と、渋い男代表で原口にも参加してもらうことになった。
試験開始1時間経過……。
3人とも3の段の途中で苦しんでいた。「序盤から相手の出方を伺っているみたいですね。タイヤをいためないように無茶な頑張りはしていないようです。」と田中(敏)が少し上から目線で解説してくれた。
試験開始2時間経過……。
「和田さん、どうですか?」「ダイエットに成功した和田です。脳みそも筋肉になってしまいました。元気です!!」と、1時間前から進んでいない解答用紙を前に、体力があるから大丈夫だと語ってくれた。
「原口さん、進んでますか?」「シルバー大好きの原口です。渋さこそ命です。」と、必死の姿を見せることは格好悪いので、余裕を見せているだけだと語ってくれた。
「秋山さんはどうですか? できそうですか?」そうすると秋山はこちらに向いて、歯をキラリと輝かせて、ただハハハ……と笑っているだけだった。
試験開始4時間45分経過……。
その時だった、それまで7割がた白紙だった答案用紙に向かって3人がいっせいに答えを書き出したのだ。体力自慢の和田は、もちろん見かけ倒しでハーハー喘ぎながら解答していた。原口は渋さが見事に初老感と相まって、悲惨な老後を案じさせる解答姿をさらしていた。そして問題の秋山は、引きつった顔をしながらでもハハハと笑うことは止めなかった。
そして終了。3人ともすべての解答欄を答えてうめていた。燃え尽きていた。馬鹿かそれとも賢いのか、その真実が白日の元にさらされる時がついにやってきた。幾橋がマイクを持った。そして解答用紙を右手で高くかかげ「ただいまから答え合わせをしたいと思います。みなさんの中で、九九を最後まで言えるひとはいませんか?」
誰も手をあげなかった……。“秋山は馬鹿なんじゃないの?”事件の真相に近付くことはできた。しかし、得体の知れない大きな力に因って解明にまでいたることはできなかった。ハハハと細く笑んでいる秋山の本当の素顔が明かされる日は来るのであろうか?
そして新たな疑問、和田と原口は人として大丈夫なのか?パンサーツアーは引き続きこの件を追って行くことを宣言いたします。アイスフィールドが展開している世界戦略で一番重要と考えられているのが、パンサーツアーだ。昨年まではツアーに体してスポンサーという形で協力していたが、今年はレーシングチームを作ってタイトルを獲りにきたのだ。
ここ榛名においてパイロットに指名されたのは、昔の栄光を全く感じさせない体型へと進化した上村だ。上村は言う「アイスフィールドの人間は、誰からも愛されるように可愛らしくなくてはいけないのです。丸くポッチャリとしたティディーベアのような体型こそが私達の理想なのです。」と、世界へと飛躍する前にこのパンサーツアーでアイスフィールド体型をブレイクさせ、ブームの足掛かりとしたいようだ。そのために会社一丸となって、ダイエットをあきらめ、運動を控え、お肉大好きのメニューで日々精進しているというのだ。その話を聞いたツアーの参加者は「そうか、だからダメ人間ばっかり集めているんだ。」と納得していた。 |