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カメラを向けるとなんとなくポーズをとってしまう人 その4 |
ベアのテントには山北のカートが置いてあった。そしてチームメイトの高橋と談笑する山北の姿もあった。ベアのメカニックはレースに向けて山北のカートを仕上げていった。高橋も手ごたえを感じているらしく「今日は僕はソコソコ頑張れば、相方が優勝してくれるので、気楽だよね〜。」と、レース前から勝ったようなセリフを当たり前のように吐いていた。
えっ?山北が優勝?高橋が語る信じられないような言葉に周囲は「高橋さんもボケちゃったんだ。可哀想に。」と、前からボケていたと思っていたがあれはあれでマトモだったんだと、改めてサイキョークラブの恐ろしさを認識していた。
そして、その真相を山北に聞いてみた「山北さん、今日のレースの勝算は?」「え〜っ、ボクは出ないよ〜。」「でも、カートが用意されていますよ?」「ボクは今日はオーナーだからさ〜。シゲちゃんがドライバーなんだな〜。」「え〜!! 松井さんが500で走るの!!」
そう、山北は以前もてぎのカートレースで、前日の練習でアキてしまい、メカニックの長南をレースに起用、見事優勝させて賞品をせしめた過去がある。今回も二匹目のどじょうをねらった“元国際F3000ドライバー作戦”でパンサーツアーに挑戦してきたのだ。普通のレースならば『キッタネ〜!!』となる所だが、パンサーツアーでは『楽して勝つ=誉められる』なので、山北は「すっげ〜!!」とその仰天の作戦で他のチームを圧倒する事になった。
そしてレースでは松井の起用が当たり、見事に優勝、チームメイトの高橋は、なんの作戦もなしに自らも頑張り4位入賞、山北の作戦のせいで表彰台を逃す事になった。しかし結果的にコンストラクターでダントツのトップに躍り出、初の年間チャンピオンが見えて来た。
山北と高橋がチャンピオン獲得に向けて「残りの2戦は僕達の実力からいって簡単に勝てちゃうよね。」「もちろん、僕らが見せ場をつくって、お台場のホテルでの表彰式に行こうね。」と、がぜんやる気をだしているのを聞いて、500クラスのライバルチームは『今年は本気で年間チャンピオンをあきらめたみたいだ。』と、ちょっと安心している。
今年新たに誕生したチームがJOHNNIHEARTSだ。昨年コンストラクター1位の風戸が500のエース今村をあえて後藤に変更し、昨年よりも大幅に戦力ダウンしたと恐れられているチームなのだ。チームは謙虚にも500クラスのエースナンバー“1”を封印したが、風戸が2番、後藤が51番という500クラスのエースナンバーを付け、ディフェンディングチャンピオンを誇示、全チームから「へぇ〜っ。そうだったっけ?」と見事に忘れられ、伝説と化してしまっているのだ。そんな後藤が今回秘策を携えて筑波に乗り込んで来た。「僕達のチームは、パンサーツアーのマクラーレンだと良く言われるんです。それだけ周りが僕達のポテンシャルを恐れているからだと思うんです。だから今回は本家F1チームのイメージをもっと取り入れて、ライバル達にもっとプレッシャーを与えようと思うんです。」と話す後藤は、マクラーレンのレプリカステッカーをカートに貼っているのをすっかり忘れ、周囲が畏怖の念から後藤達をマクラーレンだと言ってると思い込んでいた。
そう、それこそが、最も強力なツアーの最終兵器“勘違い”なのだ。ちょっとした勘違いが、恐ろしいポテンシャルを発揮するのだ。「僕は今回身体を絞って来ることに成功したので、驚異的な筋肉美で圧倒できますし……。」
もちろん体型は変わっていない……。
「これじゃ〜、コバライネンじゃなくて『コガラヤネン』ですね(笑)……。」
小柄どころか大柄である……。
「ルックスがジャニーズ系なので、歓声で集中できるかな〜って、心配はありますけど……。」
はっきりジャパニーズ系のオッサンである……。
「ほら、斜35度から僕を見ると、キュン!ってするでしょ……。」
どの角度から見ても“丸”なのだが……。
「狩野英孝ってへんだね、だってイケメンって僕のことでしょ。他に居る?」
……。
話を聞いていた参加者は見事に疲れてしまい、レースに向けた集中力が削がれてしまった。やはり“勘違い”は恐ろしい武器のようだ。 |