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これはZEROの08年モデル。毎年カウルデザインを更新するZEROの新作だ。コンセプトは山本の「黄色しか嫌!」と幾橋の「ブラックが一番」の両方をとった玉虫色の政治的決着をみたデザイン。 |
世界が末期的な善子シンドロームに犯されると不思議に山形の人気が急騰した。それは、ヤケになった人々の目に『快楽こそ命!』とウソぶく山形が天使のように映っていたのだ。「なんだ、汚ったねーのが天使なんだな。」と杉山は意外にマトモなことを言ったが、「あんたは言う権利が無いんじゃないか……」と皆が思っていたのも事実だった。
その一言が“オシャレな山形”と誰が言ったか知らないが、やっぱり聞いた事のない、山形のオシャレ感性に火を着けた。
全身の無駄毛を処理し、ピンクのタイツに包まれた体は、均整の取れた50代メタボ体型の随を極め、しっかり出た腹部と筋肉が落ちて細くなった手足が、絶妙のコントラストを醸し出していた。「おおーっ!」
その肢体はとても眩しく、誰も正視出来なかった。山形は得意になっていた。「そうだ、杉山カートの中年隊として、山田さんがニッキ(錦織)で、湯山さんがカッちゃん(植草)
俺がヒガシ(東山)としてデビューしよう!」
思わずモッコリさせたその瞬間、左下から一陣の風が迫って来た「もう! なんて格好してんのよ〜!!!」
バキッ!
久美の右ストレートが山形のアゴを砕いた音だった。ゆっくりと崩れ落ちて行く体は、養老の瀧でライズの宴会中に、こぼれた焼うどんの汁を拭いた布巾のように美しかった。
久美の拳は山形のアゴの骨と世界の希望を打ち砕いてしまった。「久美さんの手は大丈夫だったかしら…。」「あんなものを殴って、バイキンは平気なのかしら……。」
と、世間の女性は久美にとても批判的だった。
最期の希望だった山形が居なくなり、善子の独壇場だと思われた予選は、観客の総べてが喪服で身を包み、悲しみ一色で始まった。
スタート直前、伊藤が宣言した。絶対に善子に負けない必殺技があると言うのだ。「善子の悪を止められるのは僕しか居ません!何故なら僕は負けないからです。」「ウォー!! 伊藤スゲー!! 伊藤イケテル!!」
この一言に観客席からは歓喜の声が上がった。「この男ならやってくれる! だって目を見てみろ、人を騙すようなドンヨリとした綺麗な目をしているじゃないか。」「顔を見てみろ、誠実とはほど遠い詐欺師ぽい端正な顔をしている!」世界の運命を任す事がこの男には出来ると誰もが思った。そして、伊藤の作戦は実行された。「じゃあ僕は家に帰ります!」
と、さっさと帰ってしまい、善子に負ける事無く敵前逃亡してみせたのだった。「……。」
この、あまりにも見事な作戦に観客も「今度来たら、殴っても良い?」
と、絶賛の嵐だった。
伊藤は負けなかったが、善子の勢いは止まりそうにもなかった。
そして予選。スタートと同時にアメリカの放ったスカッドミサイルが善子を狙ったが、スタートダッシュが余りにも凄かったので、後方を走っていた幾橋に命中。大きく後方へ吹き飛ばし、幾橋を最下位に押し下げることになった。「ああ〜イクちゃんまで……。でもいいや別に期待してないから。」
と、世の中をがっかりさせ、このまま破滅に向かっていくのを暗示させたのだった。
最後尾から山下が猛烈に追い上げて来た。毎週1〜2台をパス、その走りは鬼神のようだった。不運だったのが抜いた11台全てが500の選手だった為、全く順位が上がらなかったことと、どんなカートを抜いても付くオーバーテイキングポイントの大漁獲得かと思われたが、最下位からではポイントの権利がないことだった。そのことについて山下は「今日のサザエさんは見逃せないんで。速く走ったら早く帰れるかと思って……。」
と、とても前向きだった。
だが、ドラマは待っていた。予選も終盤、石井が善子をパスしようとしていたのだ。そして一瞬の隙を付いてパスに成功したのだ!! |