2005年の最終戦、日は傾き高原特有の急激な寒さが訪れようとしていた時、350クラスの優勝者にチェッカーフラッグが振られた。優勝は蟻馬だった。蟻馬?えっ?2位は満平......なんで?......。榛名の電光掲示板のちょっとしたいたずらで、お茶目な順にリザルトが表示されてしまった。紳士な蟻馬はもちろん「僕は優勝していませんよ。掲示板のミスです。初めてのサーキットじゃなくて1周目にスピンしなくて、スピルバーグの宇宙戦争のラストがいまいちじゃなかったら優勝できてましたけど。」と、意義を申し立てていた。ツアーの参加者は蟻馬のスポーツマンシップに乗っ取った言動にいたく感心し「流石はアリケン、子供だから宇宙戦争のラストの良さがわからなかったか...。」と彼の清らかな魂に絶讃の嵐を浴びせていた。
本当の優勝者は苅米だった。苅米は石井・横尾との個人タイトル争いそのままに、デッドヒートをくりひろげ優勝、タイトルを獲得した。その事を苅米は「いままでコントロールタワーに呼び出されての優勝取消は経験済みでしたが、その場でいきなり取消は自己新記録でした。」と喜びを噛み締めていた。ライズでも苅米の優勝でのタイトル獲得で、大いに盛り上がり「普通に優勝できないんですかね。」と怒っていた。
ファステストラップを出した石井だが、さすがに苅米とのボーナス5秒の差はなんともしがたく、4位にとどまり、個人タイトルを逃してしまった。「ねえ、なんでイクちゃんが俺より前なの?なんかズルしてない?」とカート界最高峰のツアールールを旨く活用出来なかった事を悔やんでいた。しかし、茂原西で受け取りそこねていたファステストラップ賞も併せて受賞、ツア-参加費が浮くことになった。事務局長の幾橋は「口封じの為では無い。」と遅れた受賞を詫び、「優れた結果は何時も表彰されるべきだ。」と心にもない名言を残した。
もう一人のチャンピオン候補の横尾はスタートダッシュに成功しなかったため、1周目にピットインを敢行、ピットレーンでは本日最初のお客様にたいして「いらっしゃいませ。」、ストップサークルでも「いらっしゃいませ。」と、厚い礼をしたうえで、「キーをお預かりします。ボーナスのカウントが済みしだいお呼びいたしますので、お飲物でもいかがですか?」とアルコールで横尾をもてなした。このゆったりした対応で横尾はレースの勝者の権利を無くしてしまったが「いや〜いい気持ちでレースをさせていただきました。」とレースは堪能できたと喜んでいた。もちろんこの対応はJAFのおとり捜査で、飲酒ドライバーの摘発を目的に行われたものなので、後日横尾宅に出頭要請書が届き、罰金と減点が科せられることになる。
2位を取り消された満平は非常に残念そうに「やっぱり私が可愛いから、隠しておきたいのかしら、美しいって罪なのね。」と語っていた。美しさは罪にはならないが、嘘は罪になる。 |