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見た目は若いけれど、そろそろしっかり500クラスの和田さん |
今年もどう言うわけか始まってしまったパンサーツアー。
世界の技術革新とは逆行し、毎年壊れていく参加者の脳みそが、もはや人間の領域に留まっていないと言われる中、誰もが相変わらず元気そうだった。
久しぶりに会った山下は少し様子がかわっていた。見た目は去年より少しオッサン度が増したくらいであまり違いはないのだが、何故か雰囲気が違うのだ。
「あれ? 山下さん眼鏡かなんか変えた?」「分かる! いやさ〜、シーズンオフに新しいダイエット方法を見つけてさ、これがホントに体重が減るんで、しっかり仕上げてきたんだ。」「俺もお腹周りとかスッキリさせたいから教えてくれる?でも辛いんじゃないの?」「それがナ〜ンにもしない。しちゃいけないんだ。」「ウソ! イイね〜。それでお腹がへっこむんだ。」 「いや、そんなところを減らしても体重はあんまり減らないよ。人間で一番重い所を痩せさせないと。」「えっ?どこそれ?そんな所ある?」「ノ・ウ・ミ・ソ! 脳みそってものすごく重いから、ここのダイエットって無茶苦茶効くんだ。僕はこのオフシーズンの3ヶ月間、口を半開きにしてナーンにも考えないでボーッとしてたら、脳みそが半分になちゃって、体重がド〜ン! そのうえ悩みなんかもド〜ンと減って、今とっても幸せ!」
「.........。」
そう告げた山下は実に幸せそうにヘラヘラ笑って、いつでも相談に乗るよと言ってくれた。午後のレースでは体重と一緒に悩みまでもを亡くした山下が優勝し、ポディウムの頂きに登った。その時、優勝の喜びに溢れている山下の顔が何故か上野公園の猿山の猿に似ている気がした。一瞬山下と目が合った時「ウッキー」という叫び声が聞こえたのは、私の空耳だったのかも知れない。
月から来たかぐや姫久美は、相変わらずその美しさで周りを和ませていたのだが、去年よりも増して地球の引力に負けて背が縮んでいた。もう少しで縦と横のサイズが同じになりそうだった。「どうしたの久美さん。なんか辛そうだね。」「そうなのよ、ここの所足腰に負担がきちゃってるの。歳なのかな〜、でもちゃんと歩くようにはしてるんだけどな〜。」「へえ〜久美さんでも歳にはかなわないんだ。」「まあね。でもまだまだ見た目も体力も若い人にはまけないからね。」その時だった、ギシッ!という音とともに久美の身体が更に5cm縮んだ 。「えっ、久美さん大丈夫?」「大丈夫よ、ここの所たまにあるのよ。」
しかしその無気味な音は静まることなく更にギシッ! ギシッ!と久美の体を縮めていった。 そして身長がタイヤホルダーに刺さっている4本のタイヤと同じくらいになった時、ビィヨ〜ン! という大きな音がした。それは、まるで縮められたバネが解放された時ように久美の身体が一直線に青空に向かって飛んで行った音だった。その姿を見てツアーの参加者は『へぇ〜っ。久美さんは月に帰っていったんだ』と、嬉しそうにいつまでも空を見上げていた。
最近わけの分からない物騒な事件が多い。しかし、もっと不思議なのは『平凡パンサー』の編集長丸塚が、一連の事件に巻き込まれないで無事に居ることだそうだ。そういった事もあって、世間では、パンサーツアーは"M"じゃないと参加できないと本当に思われている。
イギリス、オックスフォード大学で画期的な発見がなされた。山田の存在感の薄さの原因が分かったらしいのだ。オックスフォード大学のビンキュー教授によると「山田さんはよく見ると微妙にずれた二つの肉体を持っているんです。やや右側にずれているのを我々は"赤山田"と呼び、左側にすれているのを"青山田"と呼んでいます。この壊れたブラウン管テレビの様なズレた肉体を持つために肉眼で見るとブレて見にくいのです。解決方法はボディーをたたくと、たまに直ったりしますが、一番確実なのは3D用の眼鏡をかけると、クッキリ山田さんが立体的に見えます。」と、存在感の無い山田の身体を確実に捕らえることで、技術革新が21世紀にもたらす明るい未来を証明した。
もちろん、その内容に世間は驚き、ツアーの参加者も「2011年に地デジが始まったら山田さんはいらなくなるんだ。」とゴミを見るような目で山田を見つめていた。地球の温暖化問題に新たな危機が唱えられている。風戸が余りにも色黒なので周辺の気温が異常に上がり、東京を中心としたエルニーニョ現象のようなものが起こるらしい。気象庁はこの新しい気象危機を"ジョニーニョ現象"と命名、世界各国に緊急の対策を依頼、問題の克服に懸命になっている。一部報道によると、風戸を地上8000メートルの高さに打ち上げることによって、ジェット気流により風戸の影響を世界中に分散することができる可能性が言われているが、風戸の被害を世界中にまき散らすだけだと中国からの批判もあり実現化は難しそうだ。事務局長の幾橋が語った「じゃあ、ジョニーを白く塗ちゃえば?」発言が、ここに来てにわかに注目を集めている。 |